とあるバーにて
以前、自分の住んでいるところでおいしいものがありませんと生きていけないと書きました。
今住んでいる町に引っ越してきて数日間はおいしいもの、酒場を探しに歩き回りました。そんなある日、「これはいいぞ!」と良い香りがプンプンするバーに行き当たりました。入ろうとしたところドアに鍵がかかっています。よく見ると暗証番号!が。本気の会員制のバーでありました。
会員制である以上、基本的には会員の紹介が必要です。しかし、当時引っ越してきたばかりの私にはその町で知人は一人もおりませんでした。考えあぐねていたところ、隣に雰囲気のある天ぷらやさんが。ひらめきました!きっと商売をやられている者同士、何かヒントをもらえるかもしれないと思い切って天ぷら屋さんに入りました。
会計の際、「となりのバーに入りたいんですけど、どうするといいんですかね?」「なんだ、紹介してやるよ」とその場で電話をかけてくれました。そこで、すぐにそのバーに行ったのですが、そこで開かずの扉を開けて待ってくれていたのが、バーテンダーのOさんです。
Oさんは今は独立され、開かずの扉のバーのほど近くでシングルモルトを中心にしたバーを経営されています。
私がしばらく無休で営業していたものですから、久しぶりの訪問でした。
フルーツ感が強く、甘いバニラの後味があるシングルモルトの次にいただいたのが、ぶどうのカクテルでした。一粒生でいただいたのですが、大粒でマスカットと巨峰を足して2で割ったような味わいでした。ジンベースで作ってくれましたが、いやおいしかったです。濃厚で甘いけれども、ジンの爽やかな感じととてもよくマッチしています。
できることなら、このような仕事ができるバーテンダーのいるお店でいつも酒を飲みたいと思います。ぶどうの味を見極めたうえでのベースリカーとしてのジンの選択。そして、ジンといってもメジャーなところでも、タンカレー、ゴードン、ボンベイサファイアなどある中で、どれと組み合わせるのか。このあたりがバーテンダーの腕の見せ所であります。
こちらのお店はSシェフの料理もいいです。
最後に、お祝いだとサービスしていただいたのが32年熟成のモルトウィスキーでした。わずか9年!しか操業しなかった幻の蔵だそうです。32年熟成とは思えない、フレッシュな感じさえするモルトでありました。30年以上の熟成を経て尚、こういう酒質のモルトがあるんだ!新体験となりました。
万事こんな感じで、この町で豊かに過ごせたのはOさんのような人たちがいたからだと思っています。
ちなみに私のお店で冷たい飲み物用に使わせていただいているグラス「うすはり」は、こちらのお店と銀座のバー ロオジエご出身のTさんのお店 代々木上原「カエサリオン」でヒントを得たものです。