茨城からのお客様(カスタムナイフメーカー 鈴木義男氏)
カスタムナイフメーカーという作家あるいは職業があることをご存知でしょうか?
ハンドメイド(カスタム)ナイフメーカーの定義は定かではありませんが、ゼロから(無垢の鋼材、ハンドル材など)から、削りだしたり、鍛造したりし、創作していく作家のことをいうのだと思います。
もともとは欧州の王侯貴族が自分たちのために、装飾を施したハンドメイドしたナイフを作らせ、ペンナイフなどを携帯する(武器ではありません)ことが紳士、淑女のたしなみとされていた時代がありました。英国のシェフィールドなどはそのなごりですね。
今でも当時のものはアンティークとして高値で取引されていますが、美術品としての価値が高いものです。
日本にも肥後守(ひごのかみ)という伝統的なフォールディングナイフがありますね。私の幼少の頃などは、肥後守で鉛筆を上手に削ったり、竹ひごを削ってみたりということを小学校の先生に教えてもらったのですが、昨今の情勢では難しいでしょうか。
当時、肥後守は駄菓子屋さんや文房具店ならどこでも売っていたものです。一歩間違えば、手を切ってしまう危険な刃物を扱うということは、理性をもって接しなければなりません。そのために、当時は大人になる過程での子供の教育として使われてもいたのでしょう。
話がそれました。遊びにお越しいただきました鈴木義男さんとは10年くらい前からのおつきあいになるでしょうか。刀匠でもあり、R.W ラブレス氏(著名なアメリカ人カスタムナイフメーカー)のパートナーでもあった、日本人カスタムナイフメーカーの元祖的な存在であるクザン小田(小田紘一郎さん)氏からご紹介いただいた経緯があります。
その頃、鈴木さんはまだナイフメーカーとしてデビューしたてで無名でしたが、その類まれな精度感、芸術性、アイディアなどからめきめき頭角を示し、フォールディングカスタムナイフ(折りたたみ式)の世界では、今や日本でも何本かの指に入る作家さんになりました。
鈴木義男さんのナイフの多くはレミントンやシェフィールドをモチーフにして作られますが、そのシンプルな外観とは対極的に、ディテールは本当に大変な精密感かつ大胆な工夫が凝らされています。「神はディテールに宿る」を具現化している1本であり、私自身、鈴木さんの作品に触れて色々と勉強になりました。
機能を精密に突き詰めたデザインであり、かつ美しい。
シンプルに見えるのですが、実は各パーツが3次元的に複雑に絡みあい、フォールディングであるがゆえのアクション(動き)が加わるのですから、これは実物に作り込んでいくのはかなり厄介な代物です。フリクションも計算しなければスムーズに動きません。多分、3次元CADなどを使用しても図面化するのは非常に難しいのではないでしょうか。
コーヒーローストの神もディテールに宿るような気がしております。
そんな鈴木さんが昨日、奥様とお二人で茨城からふらっと遊びに来ていただきました。オープンのご案内の葉書を出させていただいただけで、何の前触れもなかったのでこちらが驚いてしまいましたが、本当にうれしかったです。
現在制作中の作品、2本(すでに予約が入っているそうです)を持ってきてくれました。最近の鈴木さんの作品に対する考え方は、ハンドル材(スタッグ)の都合に合わせて、全てを作り込んでいくということだそうです。スタッグ、鹿角は天然のものですから、2つと同じ物はありません。ということはそれに合わせて作られた作品は、ブレード、フレームなどは勿論、全体のデザイン、サイズなど全てが異なり、まさに一期一会の1本となります。
シリアルNo.はどれも001/001ですね。年間20本くらいしか作れないそうですから、まさに手に入れられた人は幸運です。
いつかまた作ってもらいたいですね。