高級でなくても豊かな街 オレゴン州ポートランド ②
さて、まずはロースター、カフェを集中的に訪問しましょう。
ACE HOTELのすぐ近く、ダウンタウンにCourier Coffee Roastersという気取らないカフェがあります。
今回訪れたカフェの中ではもっとも普段着に近く、飾り気のない、それでも一つ筋の通ったコンセプトを感じさせるカフェです。
ダウンタウンの少しアンティークな雰囲気にもマッチしてます。
こんなさりげないお店が職場の近くに、家の近くにありますと、ほっとした時間が過ごせそうです。
バリバリにインテリア、エクステリアに凝って、お金をかけるということではなく、一杯のコーヒーをシンプルに楽しんでもらうためのものという考えが伝わってきます。
でもカウンターなど無垢材を使っていたり、テーブルや椅子はアンティークのものを使っていたりとデザインとしてもあまり主張しないように良いものを使っていました。
事前に調べたところでは、川向こうの倉庫街などに興味深いお店がたくさんありそうです。
ダウンタウンのゆるやかな坂を自転車で下り、ウィラメット川にかかる橋を渡って倉庫街の方へ毎日通うことになりました。
個人的に興味のあるお店は、なぜか川向こうの倉庫街やその周辺の住宅街の中にあったのです。
橋を渡ってまずは、Coava Coffee Roastersに行きました。
Coavaの本店は竹細工ファクトリーと一体のユニークなロースタリーカフェです。
もともとはバイクのガレージとして創業したそうですが、本店の空間の使い方はとくにユニークで、自社製品である竹をモチーフにした細工が随所に散りばめられています。
ぱっと見、がらんとした質素な空間にしか見えないんですが、ディテールを含め相当に追い込んで作ってありますので、シンプルさと豊かさが同居している空間になっています。
この辺はなかなか写真では伝わりにくいところです。
考えずにただシンプルにしてしまうと、単なる手抜きの陳腐なものになってしまうものですが、引き算の上に成り立っているシンプルさというのはかえって力強く、説得力を持つという好例だと思います。
言葉いうのはたやすいですが、これを実現するにはとても難しい。
ないところからは、引きようがないですからね。
竹を使っているせいもあるかもしれませんが、古来の日本建築にあるような美意識も感じました。
coavaはもう少し離れた場所にもう1店舗あります。
そして、倉庫街からさらに住宅街の方へ入ったところにあるHeart Coffee Roasters。
こちらのお店もポートランドのカフェを見るのに外せないお店の一つです。
こちらもお店もシック、シンプルにまとめられていました。
コンパクトなんですが、狭さを感じさせません。
アートカフェのような雰囲気もありました。
さらに自転車に乗り、迷いながらやっとついたEXTRACTO Coffeehouse。
緑豊かな住宅街の中にある平屋造りの集合テナントの一角に入っていました。
こういったテナント自体が日本にはなかなかないですね。
EXTRACTOは、前述したダウンタウンのCourier Coffee Roastersに共通する雰囲気を感じました。
それぞれ個性的で、外見が似ているわけではないんですが、かざらない、普段着のお店という感じですね。
お店のある地域との密着感がより強くあると感じます。
Coavaのもう一つの店舗です。
本店の方とはまた異なるコンセプトのお店です。
本店の方がどちらかと言いますと、ポートランドっぽいでしょうか。
そしてSTUMPTOWN COFFEE ROASTERSへ。
私が行きましたのは、スタンプタウンの中でも焙煎工場も兼ねるビーンズショップ(豆売り専門店)のようなお店です。カフェはありませんが、工場ということもありかなり大規模な建物でした。
ちょうどパブリックカッピングをやっているというところでしたので、お邪魔してみました。
スタンプタウンは、投資ファンドに買収されたこともあり、今回ご紹介した他店とは雰囲気といいますか、流れている空気が少し異なります。
それは建物やインテリアしかり、商品サービスしかり。
こういったパブリックカッピングにもそういったことが反映されていると思いました。
スタンプタウンのスタンプとは、切り株のことで、木材伐採がさかんだった頃のポートランドの愛称でもあったようです。開拓者時代のスタンプタウンとスペシャルティコーヒーという新しいモデルのパイオニアという意味が込められているのかもしれません。
ポートランドのカフェをめぐってきましたが、多くのカフェは狭いエリアに根付いていて、地元のお客様に愛されているという共通点がありました。(スタンプタウンの焙煎工場兼ビーンズショップは少し異なるかもしれません。)
「それぞれ少しづつ異なる町の風景に溶け込み、その周辺の人たちが毎日のように通いつめている」そんな感じです。
もしかしたら、1日に何度も訪れる常連客がいるのかもしれません。
それでも、常連客の風体をなすことなく、あくまで謙虚に溶け込むユーザーとそれをいつもと同じように分け隔てなくサービスするお店側とのコンビネーション。
お店の設計もそれぞれ個性的でかっこいいのですが、だからといってこれをそのまま日本にもってきても良いものになるとは限らないのが難しいところです。
それぞれが、そのお店のある周辺の空気、水、人、すべての環境を取り込んだうえでのデザイン・設計だからです。
次回(最終回)はポートランドのくらしを演出するもう一つのキーワードである食を支えているお店をいくつかご紹介したいと思います。